1月23日(土)に、インデペンデント・キュレーター、青木彬さんが講師を務める第5回目のレクチャーを、神奈川県横須賀市にある青木さんのアトリエからオンラインにて開催しました。
70分ほどの軽快にして深いレクチャー、その後の当会代表・中村との対話、参加者の方からの質問への応答。時間が経つのが本当にあっという間でしたね。
以前、ここでの紹介で青木さんのことを「越境する力が高い方だと思います」と書かせていただきましたが、アート、建築、医療、福祉、地域、まちづくりなどさまざまな領域を接続しながらの思考と活動に、アートプロジェクトの可能性を存分に感じられた時間でした。
それでは例によって、頭出し的な報告になりますがレクチャーの概要を紹介します。
1青木さんの活動紹介
美術館やギャラリー所属していないインデペンデント・キュレーター
・展覧会の企画
・アートプロジェクトの企画・運営
・講演や執筆活動
『素が出るワークショップ』饗庭伸・青木彬・角尾宣信 編著
(2020/9発行 学芸出版)
2アートプロジェクトってなに?
・代表例として川俣正の「ワーキング・プログレス・プロジェクト」
・アートプロジェクトが何故生まれてきたのか、
世界では、日本では、どう変容してきたかを年表で解説していただき・・・。
・2000 年には、アートプロジェクトという言葉が一般化し、 美術館やギャラリーではない場所で、人々を巻き込みながらアート活動が展開されるようになった。その流れの中で「アートは、まちづくりに利用されているもか?」 「アート以外のことも要求される?」「それはアートなのか?」など、問題も生じてきている、と。
さて、それでは・・・と次の本題へ。
3ローカルから考える暮らしの中の創造力とは?
⑴ 創造力とは?
モヤモヤと考えている途上で、大正時代の美術の事例2つから手がかりを得た。
・精神科の松沢病院における医師と患者の協働作業による庭づくり活動
・セツルメント運動での、子どもたちへ鉛筆画を教える活動
作品が残っていないのでアートとして拾われていない。
しかし、アートとして評価される/されないということではなく、「切実な創造力」があることが大切なのではないか?
⑵ローカルとは?
これまでのカマクリSNS で紹介した墨田区や横須賀市での活動の例を引きながら。
「ローカル=地域/地方」というわけではない?そう気づくきっかけとなった事例として
・京都市左京区の大見新村プロジェクト
廃村状態にあった村に一人で移り住み復村を目指す。
・下関市 ドリームオブ貴和の里
イギリスの現代アート財団グライズデール・アーツと、貴和の里に集う会が、継続的な地域づくりを実践中。
・青木さんも関わっているプロジェクトとして「dear Me」
・山山アートセンター「とにかく生きよう」
僕が関わっているプロジェクトって、アートワールドにおけるローカル?ローカルとは、伝えたい人や場所に伝わる距離感として捉えられるのでは?
青木さんの解題
ローカルから考える暮らしの中の創造力とは?
本当に伝えたい人や場所で考える「切実な」創造力。
4青木さんがディレクション/キュレーションした
2つのプロジェクトについて、より踏み込んだお話を。
・「ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまちー」
→アートプロジェクトの「当たり前」さえも疑った。
・たまのニューテンポ
→まちを変えるスタートを一歩手前に。
「キュレーターが考えて考えて、カッコイイものを作ろう!」ではなく、早い段階で、まちの人に聞いてみる。なんなら一緒に作りましょう!
5切実な創造力の使い方の一例として。
約1年前に右足の切断手術を受け義足にしているが、本義足をつくるに当たって、そのソケット部分の製作に取り組んでいる。今住んでいる地域で育てた藍で染める布などを使うことや、切断した右足の遺骨を顔料にして着彩できないか・・など。これはアートプロジェクトなのか?
最後に「アートって何?」だけではなく、「身近な創造力で、どんなことが可能になるのか?」という問いを投げかけて終わります。
——
レクチャー後は、参加者の皆さんからの質問へコメントを頂きながら、「アート」「まちづくり」の関係性の読み解きを軸に、
司会の中村とのトークが進みました。
「コロナ禍で人が集まる場をどうやって作っていけば良いか?」という質問へのコメントの中で語られた「アート=非日常として捉えているとストップしてしまう。 アートを日常の中の営みとして呼び直すことから始めたい」という青木さんのメッセージは、私たちの「暮らしの中の創造力」の手がかりとしてしっかりと受け止めたいと思います
カマクリ 2020の最終回、第6回は2月27日、講師は美術家の開発好明さんです。引き続き、SNSでの発信にご注目ください!
——-
最後に、レクチャー参加のみなさまに、青木さんから事前にお伝えしていただいた関連記事などのリンクをみなさまにも共有します。
アートプロジェクトにおける臨床的価値とはなにか
──「生きること」と「アート」が交差する現場から
アートって図々しい。青木彬×福住廉が考える市民と作家の交歓
青木彬×宮本武典 入場料は野菜? アートと経済的価値を考える
「セツルメント 」について触れているラーニング・ラボ